Spring Drive / SEIKO

 ワタクシは自他共にに認める『メカおたく』である。精密だろうが大雑把だろうが、とにかく『機械Love』なのだ。子供の頃から機械類を見ると何故か一人で興奮していたし、何か与えると直ぐにバラバラに壊して中を覗く子供だったらしい。まぁそれが功を奏してか!? 物心つく頃には身の回りにある大概の機械類の構造は知っていたし、簡単な修理もできる様になっていた。

 ただ、それでも私なりに『トキメく機械』とそうでない機械がある。これは性格的なモノが多々影響していると思われるが、私は特に『変な物』が大好きなのだ。無駄な機構とか突飛な発想だけで実用性の無い機械とか、あと、どう見ても外観から構造が判らない機械ね。コレらはもうニヤケが止まらないほど好きである。埋め立て地とかにある巨大プラントなんか時間を忘れて見入ってしまうくらいだ。もうヘンタイの域である。
 実は、学生の頃、原チャリの免許をとってからは結構マメに埋め立て地に通っていたのだ。人が殆ど誰も居ない広大な空間に、訳の分からない巨大機械の低い唸り声だけが聞こえる。夜には美しい照明を身に纏い、寂しく美しく輝く。何と表現すれば良いのだろう? ブレードランナー的? ちょっと近未来で退廃。そう『退廃感』。コレが埋め立て地の言いようも無い魅力なのかもしれない。

…イカン話が逸れた。

 しかし大人になってくると、少し嗜好は変わって来て、コレに『デザイン』という要素が絡んでくる。まぁ大方の想像通り『車』にハマったのは言うまでもない。変な車ばかり乗り継いだし、それなりに改造しまくったワケだ。まぁコレは話し始めると長くなるので別の機会に。

 そして35を過ぎて海外に出る様になると、日本の独自性というか『Made in Japanの素晴らしさ』について考える様になる。我々は日本で教育を受けて来たから『加工貿易』という美しい言葉で騙されて来たが、実は日本だって 40〜50年程前までは『模倣貿易』というか『パクリ貿易』だったのだ。エラそうに中国の事なんか責められないと思う。海外の物をただ真似するだけでなく、それにプラスαしてより品質の良い物を作り出して来た『根性』が認められただけの話だと思う。

 しかし、こうやって改めて考えると、日本の『完全な独自性』を持った物というのは非常に少ないという事に気付かされる。私は『日本じゃなきゃ出来ない技術で商品化している製品』って、もっと沢山あると思っていたが実は非常に少ない。ロータリーエンジンだって『日本の技術の結晶』みたいな宣伝をされていたが、元々はドイツの技術であるという事を最近知って激しくショックを受けた程だ。

 そう考えると日本人は「応用は得意でも0から1を生み出すのに向いていないのか?」と思ってしまう。勿論ケミカルの分野や他の知らない分野では結構あるのかもしれないが、こと私の目にとまる様なラヴな機械類の発明…と考えると本当に少ない。ハイブリッド車くらいのモノか? しかしこれも応用の塊みたいなモノで完全な0からの発明では無いが…。

 …などと憂いていたのだが、数年前に出会ってしまった(笑)

 非常に前置きが長くなったが、この写真の腕時計である。
 SEIKOの『スプリングドライブ』という機構を搭載した比較的初期のモデルだ。私は上述の通りメカおたくなので、勿論腕時計も大好きで機械式に限って(変なデザインのものを中心に)コレクションしているのだが、何の変哲も無いこの一見すると安っぽい SEIKOのダイバーズが私の心を掴んで離さないのは、そのムーブメントの画期的な機構にある。

 機械式腕時計の業界では高級腕時計のムーブメントと言えば何故かスイス製と相場が決まっている。複雑時計で言えばブレゲとかピゲ、クロノグラフならレマニアなどが騒がれている。構造としては『巻かれたゼンマイが解ける力』を『脱進機(振り子と雁木車とアンクル)』を使って一定時間に細かく刻んで、ゼンマイが一気にほどけない様に減速して時を刻む仕組みになっている。トゥールビヨンやらコーアクシャルやらも複雑さの度合いこそ違えど、上記の観点から見れば機構は同じと言って良いだろう。

 しかし数年前に『全く独自の方法論』で機械時計業界に一石を投じたのが、何と日本のセイコーだった。これまで世界の時計業界から見た日本の腕時計はクォーツが主流で『安くて正確』というのが売りだったので、スノッブな機械時計ファンからは煙たがられる傾向にあった。かくいう私もクォーツの時計は(例えそれがどんなに高価な物でも)全く興味が無い。なぜならクォーツは水晶振動子の性質を利用して電池の力でソレノイドを叩いて刻んでるだけなので、構造もしごく単純だし『機械』というよりは『パーツ』というイメージが拭えないからだ。それに、テキトーに作っても一生懸命手をかけて作っても精度に殆ど差が出ない… というのも社会主義っぽくて気に入らない。また、電池が無くなれば止まってしまうし、止まってしまう直前までいつ止まるか判らないし、止まってしまったら電池交換するまで動かす術が無く、ただ嘆くしか無い…というのもデジタルっぽくて好きになれない理由だったりする。
 しかし絶対的に安く作れるので環境にも良いし、正確な時間を知るだけならばコレで十分かもしれない。だが私はメカおたくなのだ。多少不便でも『生きている機械』を身につけていたい(笑) 故にクォーツは個人的には腕時計として認めていなかったりする。(便利だし壊れないからスポーツする時とかは使うけどね)

 今までセイコーと言えば『クォーツからの応用』というイメージが非常に強かった。自動巻用の振り子で電気を発電〜充電する機構(キネティック)や、太陽電池で充電する機構(ソーラー)などを作ってはいたが、基本的なエンジンは機械では無く、電池や充電池を使ったクォーツムーブメントを使っていたので、私は全然興味が持てなかったのだ。(念のため誤解を招かない様に付け加えると、勿論セイコーも一部の高級ラインで機械式時計をずっと作り続けている。ただ『イメージとして…』個人的に耳に入ってくる技術の話は、クォーツからの応用ばかりだったので興味が持てなかったのだ)

 しかしちょうど2000 年くらいだろうか。このスプリングドライブという機構を搭載した腕時計を商品化したというニュースに驚いた。何がスゴいって?

 この時計は何と! 時を『刻まない』のだ。

 動力源はゼンマイである。巷の機械式時計と同様にゼンマイが解ける力を利用する。しかし、この時計はテンプもアンクルも雁木車も無い。つまり通常の機械時計が、ゼンマイがほどける力を機械的に振り子で刻んで減速するのに比して、スプリングドライブは、なんと非接触の『電磁ブレーキ』を使って減速する構造になっているのだ。
 勿論電磁ブレーキを使うという事は電気を使うワケで、電池を積んでいるのか?というとそうではない。この電磁ブレーキは発電器にもなっていて、ゼンマイが解ける力を使って発電し、その微弱な電力を利用して水晶振動子を発振させ、そこからのコントロール信号によって電磁ブレーキをかけるワケだ。発電しながら調速するなんて究極のエネルギー再利用である。故にゼンマイでありながらクォーツの精度を誇る恐ろしい技術なのだ。
 もちろんゼンマイがなくなれば止まるし、たとえ止まった状態で何百年放置していたとしても、ゼンマイを巻けば正確に動き出す仕組みだ。そういう意味では他の機械時計と全く条件は同じである。電池が無くなる心配もないし、充電池も搭載していないのでメモリ効果や寿命の心配も無い。
 究極のハイブリッド!? 実に日本らしい発想である。しかし出る杭は打たれる運命にあり、世界中の機械時計ファンや関係者から賛否両論激しく議論された。未だに「こんなの邪道だ」とか「コレは機械時計ではない」とか「そもそも時を刻まないのだから時計じゃない」とか!? いろんな意見があるが、私は個人的には複雑時計として認めている。…というより、こういう風にヒトから中々理解されない様な『無駄に凄い技術』は大好きである(笑)

 ただ、セイコーはこの機構を発明してから商品化するのに実に20年の歳月をかけているらしく、また組み立てに非常にデリケートな手作業を要するため量産が出来ないらしい。外観からは想像つかないが無駄に手がかかっている時計なのだ。故に当たり前だが値段も異常に高い。私の持っているこのダイバーズタイプが一番安いモデルだが、それでも定価で47万円強である。ロレックスが買えるじゃないか(驚)
 また、 SEIKOというネームプレートが付いてるだけで安っぽく見えてしまうのも不憫である。こんなに凄い技術なのに『スプリングドライブ』なんて安っぽいネーミングもどうかと思うし、機構上どうしても厚さが出てしまうのでデザインも無骨でデカくなる。
 非常に格好悪い。コレにこの値段出すヒトいるの?という感じではある(苦笑)

 しかし写真だと判らないが、動いているものを見ると惚れてしまうのだ。当たり前だが、刻まないので、秒針が「ニュル〜っ」と舐める様にゆっくり這うのだ。「フローの概念」とでも言おうか。眺めていると、時間というのは『点』の集まりではなく『線』なんだな…という事を再認識させてくれる。買ってから今までノントラブルだし、相変わらずクォーツ並みの精度を誇る。全て連続回転運動で構成されてるスプリングドライブは往復運動するパーツが無いので耐久性にも優れるのだ。本当に素晴らしい技術だと思う。ドイツだってスイスだって真似できないのが誇らしい。誰もこんなのが50万近くするなんて気付かないケド、そこがまた良い(笑)やはりヘンタイかも。

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Speed Master Mark40 COSMOS / OMEGA

 機会時計に興味がない人には全く面白くないコーナーだと思うが、まぁ好きなので続けてみよう。今日紹介するのはスイス/オメガ社のクロノグラフ『スピードマスター』シリーズの一つである『Mark40 COSMOS』である。この時計は確か私が一番最初に買ったOMEGAだと記憶している。既に10年くらい前だな。
 実は私の父親が長い間OMEGAの非常に古い腕時計を使っており、出勤前に朝一でゼンマイを巻く父の姿が子供心に格好いいなぁ…なんて思って眺めていた記憶がある。その頃から異常に機械好きだった私は、やっぱり興味があるので何度も触ろうとするのだが、その度に叱られたので、なんとなく高価なものなんだろうな…という認識はしていた。ただ、朝一で機械に息を吹き込む姿が羨ましくて「いつか俺もOMEGA買いたい」なんて思っていた、そんなオマセな小学生だったのだ。

 まぁ昔話はおいておいて、OMEGAのSpeed Masterについて少し話そう。スピードマスターが1969年(だったかな?)アポロ11号に乗って『はじめて月に行った時計』である…というのは有名な話である。ちょっとネットで調べれば多くの情報が出ているので割愛するが、まぁとにかく真空状態での過酷な試験にパスした数少ない時計だったらしい。そんなこんなでロマン溢れる時計として宣伝されいているが、実は時計ファンの間では、本来の意味で『Speed Master』と呼べるのは、実はレマニア製のムーブメントを搭載した『Speed Master Professional』だけだ…と言われている。
 それ以外のスピードマスターはデザインこそ似ているが、実は似て非なるもので、スノッブなファンからは鼻で笑われちゃうのである。(なぜならSpeed Master Professional はムーブメントが高い為、他のSpeed Masterにくらべて一段価格が高い設定になっているからだ)

 私が持っているこのMark40 COSMOSも、実はムーブメントはレマニア製では無い。バルジュー社(現ETA社)の汎用クロノグラフムーブメント7750をベースに、ムーンフェーズのコンプリケーション機能を追加した『ETA7751』を積んでいる。(オメガ社のキャリバー呼称ではCal.1151と呼ばれる)

 じゃぁダメな時計か?というと全くもって「そうではない」と断言しよう。私はスノッブな高級腕時計ファンではない。単なるメカおたくなのだ。このMark40の何がスゴいかというと、多分OMEGAのラインナップの中で最も針(及び表示板)が多い。文字盤の中に何と10個もの表示装置があるのだ。こと機械時計に限って言えば、後にも先にもコレを越える時計を見た事が無い。

 時針、分針、秒針、24H針、日針、月表示、曜日表示、クロノ秒針、クロノ分針、クロノ時針。…の10種類である。これだけの表示を、たった一つのゼンマイから駆動すると考えると、如何に内部が複雑なのか判るだろう。しかもコレ、オートマチック(自動巻)のクセに、前述のスピマス『プロ』よりも一回り文字盤が小さいのだ。(プロは44mm、コレは40mm)精密機械ふぇちにはタマラン(笑)

 元々OMEGAがSpeedMasterの生産を開始したのは1957年らしいのだが、このMark40は40周年目にあたる1997年に作られた。ETAムーブはクロノメーター規格じゃない!なんて騒いでバカにしている輩がいるが、そんなもの自分で調整すれば誤差をクロノメーター規格まで持って行けるので気にしなくて良い。現にブライトリング社等で7750を使ってクロノメーターとして売っているメーカーもある。私はどんなに高価な時計でも必ず自分で開けて調整をするので、私のMark40は今でも非常に正確だ。

 コレは愛機の心臓部分。無駄が無くて非常に美しい。ホント惚れ惚れする(笑)ワンウェイのオートマチックは装着時に違和感が無い訳では無いが、コレは慣れの問題だ。寧ろ非常に微妙な角度差でもキッチリ巻き上げるので、非常に効率が良い。

 もしあなたがETAムーブメントのスピマスを友達に安物とバカにされても、決して凹む必要は無い。ETAは本当に非常に良いムーブメントなので、胸を張って大事に使い続けて欲しい(笑)

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Speed Master Ladies / OMEGA

Big Crown Complication / ORIS

Big Crown Classic / ORIS

Big Crown Ladies / ORIS

Khaki Automatic BigFace / HAMILTON

Commando 77429 / WENGER

D50 / Nikon

準備中


GR digital III / Ricoh

準備中


Fine Pix Z2 / Fujifilm

準備中


V570 / KODAK

準備中


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以上